There She Goes

小説(?)

私の心を癒やしてくれる音楽と本について / There She Goes #26

今週のお題「私の癒やし」 

BEATLESS ?shoegazer covers of THE BEATLES-

BEATLESS ?shoegazer covers of THE BEATLES-

 

Amazon Prime Music で日本のシューゲイズ・バンドの Meeks が、ビートルズの名曲をカヴァーしたアルバム『Beatless』を聴くことが出来る。Amazon Prime Music ではこれまで YouTube で違法で聴いていた South の「Bizarre Love Triangle」を聴けるようなので、大手を振ってこの曲を聴いていることを宣伝出来るわけだ。それで、もうすっかり馴染んでしまったシェアハウスの環境で彼はこの Meeks のアルバムを聴いている。下手な文章で紹介するよりは実物を聴いて貰った方が早いのだろう。そういうわけで Meeks の「Let It Be」を――。


Let It Be - MEEKS

メロウでメランコリックでスウィートな音楽。例えばミッシェル・ガン・エレファントブランキー・ジェット・シティみたいにトゲトゲしい音楽ではなく(彼らの曲に癒やされることもあるのだけれど)、フィッシュマンズや前述した Meeks や South といったバンドに彼は癒されるものを感じる。あるいは Jam City の音楽にも――。


Jam City - Unhappy (Official Video)

音楽の話はこれくらいにしようか。シェアハウスの話はまだ書いていなかった。彼はシェアハウスに住むようになってもう一週間くらい経つ。一度か二度実家に精神障害者保健福祉手帳を取りに帰ったとかそれくらいで、あとは基本的にシェアハウスで寝泊まりしている。軽蔑されるのを覚悟の上で彼のことを書こう。

彼は今の職場に非正規雇用者として勤務している。非正規雇用者……と書いて、この言葉の座りの悪さに彼は戸惑う。ここからして――多分彼女からすれば――彼は自虐的に過ぎるのだろう、と。勤務時間は一日五時間で、月百二十時間仕事をしている。月収は十万円程度。それなりの勤務でそれなりの収入を得て仕事をしている。

だから、正直なところ彼はヒマである。普通の人間のように一日八時間/週五日勤務で働いていないことに劣等感を抱いている。今のところ実家を出て――とは言っても基本的なところは親にも援助して貰っているが――暮らせているわけだが、彼はまだまだ自立出来ているとは言い難い。勤務時間はもう少し伸ばして貰えるように頼んでいるが、それが叶うかどうかは分からない。今の勤務形態で副業を請け負うなり、ヒマを活かして慎ましくレンタル DVD を借りたりネットで映画を観たりして優雅に(?)暮らすのも悪くないかなと思っている。

彼女から「貴方のことをボロクソに言っているのは貴方だけだと思います」と言われたので、なるべく彼は自虐的なことを書くまいと考えているつもりだ。そして、嘘偽りのないことを書こうと思っている。彼はある時期まで親元を出られなかったことに強い劣等感を抱いていた。それはようやく実現したわけだが、この暮らし自体いつまで持つか分からない。文庫本一冊すら高価くて買えない暮らし……まあしかし、これらは今の世の中良くある話なのだろうと思う。慎ましく、そして豊かに。ある意味では彼はリアルを彼なりに満喫出来ているのかもしれない。

今日は病院に通院した。先生は出張でお休みだったので、別の先生と話をしてそして帰った。あと不在者投票にも参加して――明日は天候が荒れるので――それで一日を潰した。最近彼は活字が頭に入らないので映画を観ている。一日一本のペースで……ヒマだからこそ出来ることだ。それに対して罪悪感を抱いている。もっと働こうと思えば働けるのに……しかし、と彼は思う。彼の罪悪感を責め立てる人間は実は居ないのではないか。誰も彼のことをクズだなんて思わないだろう。いや、思う人間は Anonymous に居るのかもしれないが、公でそう言う人は居ないだろう。これから現れるのかもしれないが……。

引きこもりやニートがこれだけ多い時代、自分は一日五時間「一応」働いているのだから立派ではないか……そう自己正当化を図って酒に溺れていた時期を考える。病的な呑み方……彼は結局快楽を感じられることしか出来ない人間なので、今の仕事も苦痛と言えば苦痛なのだけれどその中に快楽を見出そうとして動いているところがある。苦痛を如何にして楽しむか。楽しいことならどんな苦痛なことでもやる……その意味では彼はマゾヒスティックなのだろうと改めて思う。彼は人よりは多くの物事を知っている方に入るのかもしれないが、それは彼が勉強家だからではなく、そうするのが楽しいからであり他に理由などない。映画を観るのも結局そうしたいからするだけだ。それが楽しいから……。

彼女の中にサディスティックな側面を見出し、改めて彼女のことを好きになってしまった。彼は最近またマルセル・プルースト失われた時を求めて』の読書に耽るようになった。完読を目指しているわけではない。読んでいる間至福の時間を味わえる本として『失われた時を求めて』に勝るものはなかなかないのではないか。彼自身は読み終えたことのない本だが、今は岩波文庫版で吉川一義訳で読んでいるのだけれど読んでも読んでも手が止まらない不思議な書物だと思っている。むしろ終わってはいけない小説……「私の心を癒やしてくれるもの」のひとつに、その『失われた時を求めて』を入れても良いのかもしれないなと彼は思っている。

失われた時を求めて(1)――スワン家のほうへI (岩波文庫)

失われた時を求めて(1)――スワン家のほうへI (岩波文庫)

 
失われた時を求めて〈1〉第一篇「スワン家のほうへ1」 (光文社古典新訳文庫)

失われた時を求めて〈1〉第一篇「スワン家のほうへ1」 (光文社古典新訳文庫)