There She Goes

小説(?)

No matter how low / There's always further to go / There She Goes #38

AUTOMATIC FOR THE PEOPLE (DELUXE EDITION) [2CD] (25TH ANNIVERSARY)

AUTOMATIC FOR THE PEOPLE (DELUXE EDITION) [2CD] (25TH ANNIVERSARY)

 

R.E.M. の『オートマティック・フォー・ザ・ピープル』というアルバムを聴いている。絶望の最中に居る彼は、音楽の中にいつものように癒しを求める。エリオット・スミスニック・ドレイクトム・ウェイツニルヴァーナ……そしてこのアルバムに戻って来てしまう。このアルバムには言い知れない、言葉では表現出来ない絶望とそれを突き抜ける希望が少しばかり残っているように感じられる。その希望を信じて良いのかどうなのか分からない。結局のところ空を掴む話で終わってしまうのかもしれない。信じていた希望が存在しないことに落ち込むよりは、信じない方がダメージも少なくて済むというものだろう。

ニルヴァーナカート・コバーンはこのアルバムを聴きながら自殺したという話を聞いたことがある。遺体の傍にこのアルバムがあった、と……何処まで本当のことなのか分からない。だが、カート・コバーンはこのアルバムを聴きながらなにを考えていたのだろうかと考えることがある。このアルバムは人を死に誘うようなところはない。むしろ逆だ。聴いていると最後の最後に見えて来るのは光だ。それはあまりにも眩し過ぎて逆にキツいものなのかもしれないが、ともあれ光なのだ。もちろんカート・コバーンもそれを分かっていただろう。分かっていたからこそこのアルバムを聴いていたのかもしれないし、聴いていてもなお信じられないことに絶望して亡くなったのかもしれない。

死をふと思うことがある。どうしようもなくて、このまま死んでしまいたい……ただ、ここで死んだらどうなるんだという思いもある。まだドストエフスキーカラマーゾフの兄弟』も読めていないし、読めていない本は他にも沢山ある(トーマス・マンの『魔の山』も読みたい本だ)。ここでくたばったら、もしかしたら答えが書いてるかもしれない可能性をみすみす逃したまま死んでしまうことになる。死ぬことを選ぶよりも、老いて生き延びて、それがどれだけ無意味だとしても答えを探し続けて足掻き一生を終えたいと彼は考える。

彼女のことを考える。絶望的なディスコミュニケーション……同じように生きづらさを抱えた人間同士が分かり合えるというわけではない。分かり合えない者同士が分かり合えないなんてことも当たり前のことだ。フリッパーズ・ギターだって歌っている。「分かり合えやしないってことだけを分かり合うのさ」と。彼女と話をしたいと思うけれど彼女は話し相手になってくれない。こちらが寂しい時だけ相手になって欲しいというのは虫が好過ぎるだろう。だから彼からも話し掛けることはしない。そっと、同じ時を生きていることを確認したいと思う。

マイケル・ギルモア『心臓を貫かれて』という本を読んだ。二十年前に読んだことがある。単行本版を読んだのだけれど、今読むと沁みるものがある。それについて感想文を書いた。それで今日の成果はお終いだ。また明日がやって来る。なんだか生きているのではなく生きさせられているような人生……でもいずれ終わりはやって来る。どんな形でかは分からないが、ともあれ人生は終わる。自分も人生の後半戦に差し掛かって、ここで空元気を出す気力も失くなってしまった。どうしたら良いのだろうか……迷いに迷う。もしかしたら迷うことこそが生きることなのかもしれない。ただ、そう悟るには自分はまだ修業が足りないようだ。

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最低賃金以下の暮らしを強いられて、食費を浮かしてどうやって生活するか禿げ上がるほど悩む日々が続く。それに加えて歯医者にも行かなければならないのでまたカネが飛ぶ。それを錬金術でやり繰りしてなんとか生き延びるわけだが、生活保護もままならず障害年金も途絶えて、クレジットカードもデビットカードも持たないで暮らすことを強いられる羽目になる。だから Apple Music も Netflix も使えなくなる。それをどうしたら良いのか頭痛の種になっている。これ以上貧窮の奥底まで進んで、なお道はあるのだろうか。

カート・コバーンは「Hello, Hello, How Low?」と歌った。「どのくらい酷い?」と。それに答えてブラーのデーモン・アルバーンは「No matter how low / There's always further to go」と歌った。どんなに酷く立って道はある、と。このメッセージをカート・コバーンが聞いたらどんな反応を示しただろうか。苦笑したか、それとも激怒したか。取っ組み合いの喧嘩になっていたかもしれない。それはそれで見てみたかったという気がする。ともあれ今日はもう寝なくてはならない。明日はまた来る。明日は歯医者に行かなければ。なんだかどっと老け込んだように思う。徒労……それでもなお道はある。出来る限りのことをやるだけ……カミュ『ペスト』の主人公たちのように、淡々と生きるのだ。夜の中に答えはない。