死ぬほど楽しい毎日なんてまっぴらゴメンだよ / There She Goes #37
- アーティスト: フィッシュマンズ,佐藤伸治
- 出版社/メーカー: ポリドール
- 発売日: 1999/09/29
- メディア: CD
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どうも自分というものに自信を持てなくて困る……周囲からも「自分に自信がなさそう」「自信を持って下さい」と言われて彼も悩んでいるのだった。自信……そんなものどうすれば持てるんだろうか。いや、持っているつもりではあるのだけれど自分勝手に振る舞うことと自信を持つこととはまた違うことのようなので、困っているのだ。
彼女の話はしただろうか。「自分のことをボロクソに言うのを止めたらどうですか?」と言われたのだった。そうなのだけれど……今日も彼は自己啓発書の類を立ち読みしてみたのだけど、なかなかこれといった本がないし本を買うカネもないし時間もないしで止めてしまったのだった。それでヒマ潰しに本をパラパラめくって、一日が終わる。
- 作者: 綾屋紗月,河野哲也,向谷地生良,Necco当事者研究会,石原孝二,池田喬,熊谷晋一郎
- 出版社/メーカー: 医学書院
- 発売日: 2013/01/31
- メディア: 単行本
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自信なんてなくたって良いじゃないか、と考えることに決める。なくたって良い。そんなことにこだわってもロクなことはない。こういうことを考え始めると彼は車谷長吉のことを思い出す。『赤目四十八瀧心中未遂』の壮絶な主人公の「流され」ぶり……いっそとことん自信をなくしてしまったことから得られるものもあるのかもしれない。
車谷長吉は『文士の意地』というアンソロジーを編んでいて、三度目のオーヴァードーズに失敗した時に自宅待機状態で過ごしていて、やはりヒマだったので読んだのだった。結局「文士」にはなれなかったし小説も書けずに終わってしまったのだけれど、それはそれで良い人生だったと言えるのではないか。
彼は自分の人生が締め括りに近づいたようなそんな気がしている。不穏な気分……まだ四十代だというのに、ここで一気に老け込んだようなそんな気がする。夢見ていた四十代にならなかったこと、それ以前に四十代まで生きてしまったことにある種の絶望を感じているからかもしれない。ということは今こそドストエフスキーを読むべきなのか。
シェアハウスに引っ越して来た時に読もうと思って真っ先に持ち込んだのがドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』なのだった。『罪と罰』は先に読んでいたので、いよいよこの大長編と取り組むかと腹を括ったのである。ところが読み始めてみるとマルセル・プルースト『失われた時を求めて』に浮気してしまい、その『失われた時を求めて』も挫折しそうな勢いで、ココ・シャネル関連の本を買い漁って洋書を買い漁って、結局辻褄合わせに苦労しているのだった。読みたいものを読む。彼はそうすることしか出来ない。
自信を持つ秘術なんてあるのだろうか……彼自身は自分が変わったという気がしない。いじめやディスコミュニケーションに悩んだ十代、人格障害やアダルト・チルドレンを疑って自分を問い詰めた二十代、酒に溺れた三十代……そして今。彼を取り巻く環境は大きく変化した。彼自身が変わったという気はしていない。
強いて言えば、前にも引いたのかもしれないがチャック・パラニュークの言葉に感銘を受けたからだろうか。「人生のある一点を過ぎて、ルールに従うのではなく、自分でルールを作れるようになった時、そしてまた、他の期待に応えるのではなく、自分がどうなりたいか決めるようになれば、すごく楽しくなるはずです」、と。彼自身、たまたま断酒会で壮絶な体験談を沢山聴かせて貰ったあとに「人生、どう生きても良いんじゃないか……」とふと悟ったというのが本音である。だったらやりたいことだけをやろう、と。やりたくないことや気が向かないことはやらない。出来ないことはもっとやるまい、と思ったのだ。
それが正解だったのかどうか。世間的な成功には目を背けてひたすらやりたいことをやって生きている今は充実していると思う。ただ、それは強烈に楽しいというのとは違う。彼が敬愛するミュージシャンである佐藤伸治が歌っていた歌詞を思い出す。「死ぬほど楽しい毎日なんてまっぴらゴメンだよ」と。そんな強烈な強度は要らない。ただ、温もりが欲しい。今は彼自身捉えどころのない絶望の最中に居るとも言えるし、あるいはこれから人生がどんどん開けて行く只中に居るとも言えるのかもしれない。ドストエフスキーに戻るべきだろうか。
彼は自分を賢いとも頭が良いとも思ったことはない。経験知や叡智ということで言えば、あるいはヴォキャブラリーの豊富さということで言えば彼よりも詳しい人はもっと沢山居る。と書くとまたこれも自虐が過ぎるのだろうか。絶望と希望の狭間、良く分からない状況の中で揺さぶられて、今があるように彼には思われる。