There She Goes

小説(?)

Midnight In A Perfect World / There She Goes #33

Endtroducing

Endtroducing

 

英語の勉強を始めることとなった。一応大学では英文学を学んだのだけれど、なにかを学んでいたらこんな人間になっていないはずなので、そのあたり忸怩たる思いを感じなくもない。それで英語を使わなくてもなんとかなった環境で過ごしていたわけだけれど、ここ最近になって英語を使うべきと判断して泥縄式で勉強しているのだった。

これは「仕事」というところまで至っていないのだけれど、和文英訳を頼まれたのだった。それで資料に目を通してみたのだけれど、これが非常に悪文なので直訳するとややこしいことになる、彼なりに噛み砕いて翻訳したのだけれど、それが良かったのかどうか? そのあたり、判断を仰ぐしかない。

本格的な「仕事」ではなく書類をワンセンテンス訳しただけなので、言わば試験的な試みになる。彼の英語力はお粗末なものなので「ペンパイナッポーアッポーペン」よろしく「This is a pen.」「That is a cat.」「There is a mountain.」……式の言葉を並べるだけである。

例えば「接客応対」という言葉。これをどう訳したら良いのか思案していたのだけれど、「Service」で充分通じることが明らかになった。つまり「That store's service is bad.」これで通じるのである。彼の英語力なんてそんなものである。決して威張れたものではないのだった。なんて書くと彼女から「自分のことをボロクソに言い過ぎ」と呆れられるかもしれないけれど……。

一年前、いや半年前まででさえも自分が英語の勉強を再び始めるとは思っていなかった。「人生は驚きの連続だ」とプリファブ・スプラウトのパディ・マクアルーンは語っているが、彼女とお会い出来るなんてことも考えていなかった。まだお会いして半年、相変わらず既読スルーにこれもまた忸怩たるものを感じているのだけれど、まあ LINE は貰ったメッセージに返信しなくてはならないという決まりはないので、鷹揚に構えるようにしている。

臨機応変」は「play it by ear」……ネットで手に入れた知識なのでネイティヴの方からどう聞こえるのか分からないが、学校のテストと違って間違っていても良いのである。「in」「at」「on」の使い分けなんて未だに分かっていない。そのあたりあやふやだったのだけれど良かったのかどうか。

まあ、恥を恐れていてはなにも出来ない。英語について書かれた本を幾ら読んでも意味がない。カンフーについて書かれた本だけを幾ら読んでもそれでジャッキー・チェンの粋に達しないのと同じようなものだ。日々の鍛錬がものを言う。なので英語学習用のサブ垢を作って、それを使って英語の勉強をしているところである。要は使うことだ。学ぶことではなく。

そんなお粗末な体たらくなのだが、ともあれ手伝いは出来たということで喜んでいる。ルーク・タニクリフの本を読んだりして勉強しているところなのだが――むろん、日々使っているつもりなのだけれど――長年の怠慢はやはり響いている。昔はポール・オースターの小説を読んでいたのだけれど、そんな気力も失くなってしまった。

ただ、そんなことを言っても居られないので今はジュンパ・ラヒリのエッセイ集と格闘しているところなのだけれど、上手く行くかどうか……まあ、ダメ元で(そんなに損はしないんだから)挑んでいるところである。彼女のことを思い出す……常にテキパキ、ハキハキと論理的に整理して行った彼女の姿を……。 

Interpreter of Maladies

Interpreter of Maladies

 

そのようにして英語を enpower する傍ら、マルセル・プルースト失われた時を求めて』の読書はすっかり止まってしまい、ではなにをしているかというと映画『愚行録』の鑑賞もさっぱり進まないので、ココ・シャネルの名言集を読んで励まされているところなのだった。

ココ・シャネルは働く女性が珍しかった時代に無学な身から独学でファッションを学びブランドを立ち上げた人なのだった。つまりイノヴェーターというわけだ。女性としての弱みを強みに変えるべくどう奮闘しているかが本書の名言集で語られている。例えばこうだ。

欠点は魅力のひとつになるのにみんな隠すことばかり考える。欠点はうまく使いこなせばいい。これさえうまくいけば、なんだって可能になる。

まあ、良くある処世訓の類と言ってしまえばそれまでだ。だが、発達障害であるという「欠点」を「使いこなせば」「なんだって可能になる」……そういう言葉に彼は惹かれたのだった。自分の欠点をどう活かすか? それを知るためには自分のトリセツを作らないといけない。面倒だけれどやってみようかと思っている。

ココ・シャネルの言葉は例えばスティーブ・ジョブズのそれにも似ている。もちろん編集者が大胆にカットしたからだと言われればそれまでだが、潔くシンプルで分かりやすく、なおかつこちらのツボを突く言葉に満ちている。女性向けの本を野郎が読んでいるというのも滑稽な風景だが、それはそれで味があるのではないかと思っている。 

ココ・シャネルの言葉 (だいわ文庫)

ココ・シャネルの言葉 (だいわ文庫)