There She Goes

小説(?)

マイ・バック・ページ / There She Goes #31

GOODDEST

GOODDEST

 

昨日は彼の恋の病(?)を癒やすべく、彼女の母親とお会いした。彼が家計簿をつけているのを見て、食費を浮かすもっと良い手があるとアドヴァイスされた。ご飯を炊き味噌汁を作るというのだった。これなら栄養のヴァランスも取れるし安上がりでご飯を食べられる。素敵なアイデアではないか……ということで来週の水曜日にまたお会いして本格的にご飯の炊き方と味噌汁の作り方を教えていただくつもりである。シェアハウスに入ってから少しずつ、彼を取り巻く環境は変わりつつある。もう朝食のためにケン・ローチ『わたしは、ダニエル・ブレイク』よろしくローソンまで散歩しなくても良いわけだ。

そこで彼女の武勇伝(?)を幾つか訊いた。本来ならこんな話題は避けるべきかもしれなかったのだけれど、彼女の既読スルーの話もした。脈がないのかもしれない……彼女の就労状況についても聞かせて貰った。障害年金を貰って自立しているという話――もう書いただろうか?――も事細かに聞かせて貰った。プライヴァシーに関わることなのでこれは書けないが、なかなか助かる話だった。その方法が彼にも適用出来て、例えば障害年金二級を取得出来ればそれだけでかなり経済的に助かるわけだ。素敵なアイデアではないだろうか?

棚から牡丹餅が落ちまくる日々……「こんな手があるのか!」「こんな風に考えたら良いのか!」ということを次々と教わり、かつ実現に向けて周囲の方が動いて下さっているという状況。彼女のことを彼女の母親に話してスッキリするつもりだったのだけれど、結果的にはそんな風に「サポートしてあげよう」という話になったのだった。相手も相手で、発達障害者のサポートをしたという実績が欲しいらしいので是非力になれればということだった。むろん彼自身も力になれることがあれば(和文の英訳とか)受け容れることにするという助け合いが行われるわけだ。

その足で近所の au ショップに行きスマイルハート割引というものをして貰った。彼女の母親から教わったもので、精神障害者保健福祉手帳を見せれば料金が幾分か安くなるというのだった。加入していてお金が発生するというわけでもないしペナルティが発生するわけでもないので、善は急げと 1.5 km ほどある距離を歩いてショップに行き、障害者手帳を見せて手続きをして貰った。そうしてイオンに買い物に行き図書館に行き……そうこうしているうちに一日の徒歩の量が一万歩を超えた。『わたしは、ダニエル・ブレイク』よろしく歩きに歩いて得られた結果というわけだ。

彼は小太りだった。身長 165 cm で体重は 70 kg あったのが 62 kg まで痩せた。食べる量を減らして運動量を増やしたのだから当然と言えば当然なのだけれど、ぽっこり出ていたお腹も引き締まって来たように思われる。良いように変化していると感じられる。まあ、痩せ過ぎはまた問題があるだろうけれどそれはまたそれでなんとかすれば良いだけの話だ。痩身ということであればもっとスリムになる余地はある。お腹に贅肉はついている。それをなんとかしなくてはならない。腹筋を鍛えるべきだろうか。八つに割れた腹筋というのは彼にはまだ夢物語であるようだ。

これも書いただろうか? 書いた傍から忘れてしまうのが彼の悪癖であるのだが……十代や二十代は発達障害者であることが分からず、職場でも私生活でも虐めに遭ったり何処かトラブルを起こしたりしていた。何故なのか分からなかった。ある日友達が「発達障害者じゃない?」とアドヴァイスしてくれたので、「診断を受ける」と語ったら「まだ受けてなかったの!? そっちの方がよっぽどアスペルガー的だよ」と言われたのだった。結果心理テストを見たらグラフがギザギザだったので発達障害者だと分かったわけだ。その話も彼女の母親にした。

さっきも書いた。今では援助の手があちこちから差し伸べられている。発達障害者の支援グループの方も実績が欲しいからという実務的なこともあるのだろうけれど、それ以上に思いやりの問題もあるのだろうと思っている。彼を助けることで喜びたい。「It's my own pleasure.」……そういう思いやりの心から彼を助ける人が次々と現れて、戸惑っている。三十代は孤独に酒に溺れていたのだけれど、あの頃とは比べ物にならないくらい色々なことが生きやすくなって、幸せを噛み締めている。こんなに幸せで良いのか……料理に対しては前向きに取り組むつもりだ。

それで昨日は断酒会の日だったのだけれど、彼はしどろもどろになりながら自分の悩みがどう発達障害者当事者と家族の方の集いの場で生きているか語った。悩みは宝……断酒会で壮絶な体験を幾つも聞いたという話、「ここまで明け透けに語っても良いんだ」と目からウロコが落ちたという話がその集いの場で生きている。笑顔の話もしただろうか? 断酒会に通うようになってプレッシャーが取れて笑顔を浮かべられるようになったという話もさせて貰った。なかなか笑顔を作るのは難しいが、自然と笑みを浮かべられるようにはなったのではないかと思う。

彼が悩んで来たこと、苦しんで来たこと、自殺未遂をやってしまったことが、そんなしくじりが今では笑って話せる思い出になり、なおかつ他の方の助けになっている。そんな風に彼の悩みが他の方を助けるための悩みになり、断酒会で勉強したことが次のステップに生かせている。まだまだお尻が青い(断酒して二年半だから)ガキでしかないわけだが、そんな彼の体験談が生きている。自分は人を支えているし――もっとも、支えているなんて大それたことを考えては居ないけれど――人が自分を支えて下さっている。そんな風に悩みは循環して、解決の糸口が見えて来ている。今回は恋とはなんの関係もないことを語ってしまった。まあ、そんな日もあるだろう。

ボブ・ディランの言葉を思い出す。大まかに言えばこんな歌詞だ。「昨日の僕よりも今日の僕の方が若い」……二十代・三十代と苦しんでいた時のことが嘘みたいに、急に風通しが良くなって生きやすくなっている。彼の人生はこれから始まるのだ……そんな気さえしている。これもまた「縁(コネクト)」という奴なのだろう。